- 平成八年 (1996)四月二十六日
セールスの 青年吾子の 年頃と 同じに見えて 断りきれず
セールスの 青年の 初々し 吾子と重なり 断りきれず
売りし家 あの辺りかと 病室の 窓より眺むる ビルの谷間を
五月十三日
花々を 愛でしと寺院 巡りても 車椅子の吾 こわむ石段
年頃の子 三人あれど 縁談の 無きはあせりし あれば複雑
そよ風が カーテン揺らす 頃なれば くすんで見えし ガラスも家具も
買い物に 行く道すがら 門々の 花を愛でつつ 移ろいを知る
眠れぬ夜 バイクの音し 牛乳や新聞 届き 寝返りえお打つ
白きもの 気付かぬうちに ふえている 娘はしゃぎて 抜く侘しさよ
緑あせ 葉も落つる前 鮮やかな 色に輝き やがては土に
新聞の 活字かすみて 飛ばし読み 老眼鏡の 世話になるまじ
人の名を 忘れて我も 黄昏の 入り口に立つ 認めたくなし
青空に 飛行機の音 のんびりと 聞こえし後に 一筋の白
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